こんにちは!当ブログの管理人で水族館飼育員のめだかです!
今日も水族館について学んでいきましょう!
ブルーカーボンについて解説
現在再認知され始めているブルーカーボンについての基本的なことが分かる
今回は、最近管理人も勉強中のブルーカーボンについて解説します。
再注目され始めたのは10数年前とまだまだ浸透しきっていない新しい知識になります。
今後世界を取り巻く環境問題、海資源の問題はどうなっていくのか?水族館の枠を少し出た分野についてお話ししたいと思います!
今回はこちらの書籍「ブルーカーボンとは何か 温暖化を防ぐ「海の森」:枝廣淳子 著」やブルーカーボンに関する論文を参考に解説していきます!
それではいってみましょう!
前提:ブルーカーボンが注目される背景
ブルーカーボンを解説するためになぜ最近になって再認知され始めたのかを解説します。
地球温暖化の緩和策になるため
さらっと地球温暖化と緩和策について解説しますね
地球温暖化とは
皆さんもちろんご存じ、温室効果ガスが原因で地球の気温がどんどん上昇することで様々な異常現象が起きてます~ってやつです。
ただ、根本の原因はとても複雑で、専門家でも意見が分かれるなどなかなか難解な問題です。
その原因を調べたところ、人為的な二酸化炭素の累積排出量と予測された世界平均気温の変化量がほぼ相関関係にあることが明らかになりました。
ニュースで聞く温室効果ガスは以下をまとめたものです。
- 二酸化炭素:CO2(76.0%)
- メタン:CH4(16.0%)
- 一酸化二窒素N2O(6.2%)
- フロン類:CCl3F、CCl2F2、CHClF2(2.0%)
※CO2の内、化石燃料起源65.0%、森林減少や山火事起源11.0%
温室効果ガスには「赤外線を吸収し再び放出する性質」があります。
地球が温暖化するプロセスを簡単にまとめると次のような感じです
- 太陽の光で暖められた熱(赤外線)が地球に向かう
- 赤外線が地球表面から地球射の外へ向かう
- 大気の温室効果ガスが赤外線を吸収し、地球表面に再放射
- 赤外線が地球の表面付近を暖める
因みに一度大気中に放出された二酸化炭素は海や生態系に吸収されない限り、大気中に留まり続け温室効果を持ち続けます(長寿命温室効果ガス)。
できるだけ二酸化炭素を出さない=脱炭素社会を目指し先進国が主体となって取り組んでいるわけです。
レジ袋が有料になったり、某コーヒー店のストローが紙製になったりと身近なところでも現れてますよね
緩和策とは?
地球温暖化への対策としては大きく分けて「適応策」と「緩和策」の2つがあります。
影響に備える
例)
- 高い堤防の設置
- 熱中症予防
- 環境に強い農作物の品種開発
など
原因を少なくする
例)
- 節電・省エネ
- 温室効果ガスを減らす
- 再生利用エネルギーの活用
など
ブルーカーボンは緩和策の「温室効果ガスを減らす取り組み」として近年注目されているわけです!
前提知識を共有した所でいよいよブルーカーボンについて解説していきます!
ブルーカーボンとは?
ブルーカーボン=海洋生物によって隔離・あるいは貯留された炭素
海洋生態系は温室効果ガスの7割を占める二酸化炭素の新たな吸収源の選択肢として注目を浴びています。
みなさんがよく知る森林など陸上植物などが吸収する炭素をグリーンカーボンと言います
ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系よりも炭素貯留量効果が高いと分かっています。
【人類の二酸化炭素の年間排出量】
+9,400,000,000t:人為由来のCO2の年間排出量
△1,900,000,000t:陸上植物のCO2の年間吸収量
△2,500,000,000t:海洋のCO2の年間吸収量
+5,100,000,000t:大気へのCO2の年間放出量
海洋の特徴)
- 海洋は地球表面積の約7割(1,400,000,000㎦)
- 二酸化炭素は水に溶けやすい(海洋のCO2量は大気中の約50倍)
参考:矢部徹「二次的自然「里海」の単寿命生態系におけるブルーカーボン評価に関する研究」国立環境研究所(2017)
JCCCA(全国地球温暖化防止活動推薦センター)よる2019年の世界の二酸化炭素排出量は33,500,000,000t(335億トン)に上ると分かっています
これだけの温室効果ガスが大気圏に留まり続ければ地球の温暖化が進むのも納得です
ブル―カーボンを理解するポイントとして隔離と貯留があります。
【ブル―カーボンの隔離と貯留】
- 葉などの生体内に隔離される炭素
- 海底の土壌中に貯留される炭素
- 深海の土壌中に貯蔵される炭素
- 難分解性の有機炭素として海水中に存在する炭素
引用:ブルーカーボンとは何か 温暖化を防ぐ「海の森」枝廣淳子 著/岩波書店
そもそも地球温暖化は二酸化炭素が大気に放出されることがマズイわけです。
それを大気に触れない海洋に隔離し、海の中や底に留める(貯留)することで、大気圏にCO2を放出しないブル―カーボンが現在注目を浴びています。
ではブルーカーボン生態系とは具体的にどのようなことを指すのか?
特に効果が高いと言われ注目されているものを紹介します
マングローブ林
生育する種の例:メヒルギ、ヒルギモドキなど
- 河口部(汽水域)の通気性の悪い砂泥に根を張って育つ
- 光合成でCO2を吸収し砂泥下に炭素を蓄積する
- 河川からの動物の死骸、枝・根などの炭素化合物も堆積し、嫌気下で多くの炭素を固定する
マングローブとは汽水となる沿岸部に生育する植物の総称です。
日本国内では沖縄県や鹿児島県(北限生息地)などに分布します。
日本ではあまりなじみがありませんが世界ではブルーカーボン生態系の中でも特に二酸化炭素(炭素)の隔離・貯留効率がよいとされています。
「iPhone」で有名なアップル社もマングローブ林保全のために多くの資金を投じています。
塩性湿地・干潟
生育する種の例:ヨシ(葦:アシ)、シバナ、アオサなど
- 潮間帯の緩やかな勾配に堆積した砂泥、ヨシなどの塩生植物や微生物が育つ
- 繁茂する植物の光合成でCO2を吸収
- 陸上植物由来のグリーンカーボンを砂泥下に貯留
- 植物が海洋に流されても炭素を貯留したまま、海底に炭素を隔離できる
- マングローブ林も塩性湿地の一つ
日本でも見られる海沿いの湿地や干潟などもブル―カーボン生態系として重要とされています。
これに関しては自分は正直ちょっとイメージしづらかったです。
マングローブ林も塩性湿地の1つだと考えるとマングローブ林以外の名称はないその他の沿岸の陸上・水生の植物群といったことでしょうか。
沿岸で育つ塩類に耐性を持った葦などの陸上植物や、干潟に漂うアオサなどの紅藻類などが挙げられます。
海草藻場
生育する種の例:アマモ、スガモなど
- 沿岸部の砂泥に根を張って育つ
- 光合成で二酸化炭素(CO2)を吸収し、砂泥下に炭素を貯留
- 海洋に流されても炭素を貯留したまま、海底に炭素を隔離できる
- 潮位が低い時は大気からもCO2を吸収が可能
よく「命のゆりかご」とテレビで紹介されているアマモ場などの海草藻場もブルーカーボン生態系として重要です。
しかし近年は人為的な環境変化に伴い、国内でも減少の一途をたどってしまっています。
環境問題を解決するための救世主が環境によって破壊されている現状、これ如何に
2009年にブルーカーボンが大きく注目をあつめるきっかけになった、ブル―カーボンについての報告書によると、
- マングローブ林
- 塩性湿地・干潟
- 海草藻場
以上の3つが地球上でもっとも効果的な炭素吸収源として位置づけられています。
この3つは海底面積のわずか0.5%に満たないにも関わらず、海洋堆積物中の植生由来の炭素貯蔵量として、70%近くを占めるとされています。
海藻藻場
代表的な種:コンブ、アオサなど
- 沿岸部の岩礁に固着して育つ
- 光合成でCO2を吸収する
- 切り離されて海を漂流しながらも光合成を続ける
- 炭素を貯留したまま、海底に炭素を隔離
海草と海藻の違いってなによ!
という方にざっくり説明するとこんな感じです
【海草】
- 海中に生える種子植物(ヒマワリなどと同じ種から成長)
- 根・茎・葉の区別がある
- ほとんど食用にならない
- 砂地などに根を張る
【海藻】
- 海に生える藻(コケやキノコと同じ胞子から成長)
- 根・茎・葉の区別がない
- 食用になるものが多い
- 岩場などに固着する
因みに書籍では海藻藻場は主要なブルーカーボン生態系として含まれていませんでした。
理由として「岩礁に生えるため土壌に炭素を貯留できないため」とありました。
しかし、近年日本でもブルーカーボンが注目され始めてから様々な研究が進み、「海藻藻場」による重要性も分かってきました。
水産庁やFRA(水産研究教育機構)などの機関が海藻藻場を活用してブル―カーボンの取り組みを行うなど日本国内では重要な位置づけになっています。
個人的には日本では食用として認知されていることも他3つの生態系と違うところかなと思います。
都度収穫されて減るし、食べたらウンコになって結局大気に炭素が放出されるからです。
そもそも人間はブルーカーボン生態系の外側の生き物なことは理解しておきたいですね
ブル―カーボンを学ぶプログラムで海藻を取り扱うときに「食べる」などする場合は、「海藻を食べる=ブル―カーボン」といった誤解を生まないようにする必要があるな~と思いました
まとめ
今回は現在注目されている、地球温暖化対策としての「ブル―カーボン生態系」とはどんなものか解説しました。
ブルーカーボン生態系を守ることは地球環境はもちろん、生物の多様性を守るためにも重要
紹介したマングローブ、塩性湿地、海草・海藻藻場は多くの生物の「命のゆりかご」としての役割もあります。
沿岸で成魚になるために生きる様々な幼魚や、それを食べにくる生き物など生物サイクルの起点として多くの生き物が恩恵を受けています。
海藻藻場やアマモの展示など生態系の環境を再現して展示している水族館館もたくさんあるのでぜひ探してみてくださいね
写真は新江ノ島水族館さんの岩礁水槽と海岸水槽
海藻藻場、干潟、海草藻場と紹介した3つのブルーカーボン生態系がコンパクトに見れておススメです
一般の人は地味だと素通りしがちですが、飼育技術が求められる難しい展示なんです
今後は実際に国内で始まっているブルーカーボンへの取り組みとブル―カーボンの展望についても紹介出来ればと思います!
今回は以上になります!
本日はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
またのご来館をお待ちしております!